当院では、原則としては、Freeze-All-Strategyということで、
全胚凍結を基本的な治療方針としています。
全胚凍結という考えは、卵巣刺激を行い、複数の卵子、そこから胚を得て、
その周期では戻さずに、一度すべて凍結保存します。
そして、移植の際には、ホルモンを補充あるいは自然周期の場合もありますが、
着床に最適と思われるタイミングを選んで移植するという流れで行われます。
ここでの注意事項としては、「原則」として、ということです。
当院に来られる患者さまは実に様々な治療歴や背景をお持ちです。
初めて不妊治療をするという方もいれば、多くの治療施設を渡り歩いてきたという方もいます。
不妊原因もご年齢も十人十色です。
そうしたこともあり、当院では一部の患者さまには新鮮胚移植も実施しています。
一般的には凍結融解胚移植の方が妊娠率が高いことで知られていますが、
新鮮胚移植にはそれはそれでメリットがあるのです。
今回は、当院が行った研究のうち、新鮮胚(初期胚)移植の際に参考になりうる研究について解説したいと思います。
2細胞期から3細胞期への分割時間と胚発生
タイムラプスシネマトグラフィーを利用した動的な解析が普及していく中で、
胚発育の中での分割速度なども注目されています。
今回の研究では、2細胞期胚から3細胞期胚の時間(以下、cc2)が胚盤胞到達率、
良好胚盤胞率や妊娠率に影響するかについて解析しました。
期間
2015年1月から2016年12月の間
対象
採卵を実施した238症例440周期、合計1940個の卵子(2PN)
分類
cc2の分割期間が、
A群:5時間未満
B群:5~11時間
C群:11時間以上
として解析、比較検討を行ったものです。
結果
①胚盤胞到達率
A群:25.3%
B群:59.2%
C群:54.5%
A群がB,C群と比べて低い値となりました。
②良好胚盤胞率
A群:12.6%
B群:46.1%
C群:46.1%
A群がB,C群と比べて低い値となりました。
③妊娠率(胚盤胞移植に対して妊娠率)
A群:52.1%
B群:47.6%
C群:40.5%
各グループ間において、差を認めなかった。
また、流産率についても各グループにおいて差はありませんでした。
これらの結果から、
・cc2到達時間は胚盤胞到達の予測因子の1つとなる可能性が示唆された
・胚盤胞に到達した場合には、cc2到達時間による差はない
ということが考えられます。
そのため、新鮮胚(初期胚)移植を行う際には、胚の選択を行う上で考慮することが望ましいと考えられます。