妊孕性温存とランダムスタート法についての新しい論文が発表されているので
紹介したいと思います。
Hum Reprod. 2017 Oct 1;32(10):2123-2129. doi: 10.1093/humrep/dex276.
妊孕性温存のための採卵によって、術前化学療法の開始は遅れるか?
この論文では、術前化学療法を必要とする患者さんを対象として、研究がおこなれています。
術前化学療法を行うということは、一般的には予後が良くであろうと考えられるために、
摘出手術の前に化学療法を実施するという事です。
そのため、時間的な余裕が少ないということが考えられます。
対象としては、
18〜45歳の女性で非転移性乳癌の診断を受けた方
妊孕性温存(Fertility Preservation:FP)の相談を受けた方
術前化学療法を受けた方
合計89名を対象に、治療記録を集計して解析されました。
グループとして
ランダムスタート法を用いて、卵巣刺激を行い、卵子凍結、胚凍結を行った58名(A群)と実施しなかった29名(B群)に分け
指標として
がんの診断を受けた日から化学療法開始までの時間を検討したところ
A群:38.1±11.3日
B群:39.4±18.5日
という結果であり、両郡間に大きな差を認めなかったということです
つまり、
ランダムスタート法を用いれば、妊孕性温存のために化学療法開始が遅延されることはない
ということになります。
検討している患者さんの数がもっともっと必要だと思いますので、まだまだ検証は必要ですが、
1つの事実として、こうした認識を患者さんにも医療者にも届けたいと思います。
また、注意しなければいけない点としては、海外ではヘルスケアプロバイダーと呼ばれる様々な職種の方が、
Patient Centerd Careとして、情報提供を行っています。
がん診断を受けた患者さんだけがこうした情報を吟味し、意思決定するのは難しいことです。
ドクターだけでなく、看護師やカウンセラーなど様々な方が、限られた時間の中で密な連携を取り、
患者さんにとって納得のいく意思決定を支援できるような体制づくりが求められます。
また、本日報道もされていましたが、諸外国と比べると、妊孕性温存にかかる日本の費用は極めて高い水準であるため、
助成制度などのサポートする作れるようになることもまた欠かせないと思います。