SERC(Smooth Endoplasmic Reticulum Clusters)とは、卵子細胞質にある「滑面小胞体の集合体」を指します。
滑面小胞体の働きとして、リン脂質の合成,コレステロール合成やカルシウムの貯蔵を行いますが、
受精の際や受精後の分割においてカルシウムが関与していると考えられているため、
sERCの有無が受精後に影響を与えるのではないかと考えられています。
sERCがある卵子とない卵子とで、妊娠成績に差があるのかについて解説します。
sERCがあることで、胎児の異常が増える?
かつて、2011年に行われた欧州生殖医学会(ESHRE)において出されたコメントは、
sERCが認められると胎児異常のリスクが高くなる
というものでした。
そのため、sERCが発生している卵子については受精させないということが通達されていました。
しかし、この見解を大きく覆す研究もなされています。
ベルギーにおける大規模な研究で、sERCを有する卵子とsERCが一切ない卵子群とで分けて
治療成績を集計し、検証したものです。
比較した指標は、
- 受精率
- 妊娠率
- 胚盤胞到達率
- 胎児奇形率
などです。
結果から解説すると、このうち差を認めたものは「胚盤胞到達率」だけという結果となりました。
詳細は以下からも確認いただけます。
また、sERCについては、かねてから当院でも研究を続けています。
先日の受精着床学会でも発表した内容についても解説いたします。
2014年1月から2016年12月に当院で採卵を行った2305症例4262周期の成熟卵16109を対象としました。
このうち、sERCが認められた卵子416個((+)群)と認められなかった15693個((-)群)とに分け、
顕微授精後の
- 正常受精率
- 胚発生
を比較し、
新鮮胚移植もしくは凍結融解胚移植後の
- 妊娠率
- 流産率
- 出生児のデータ
を比較したものです。
成績としては以下のようになります。
受精率・・・差あり
(+)群:60.1%
(-)群:70.6%
胚発生…1PN率、多前核形成率で差あり
尚、変性率、Day3良好胚率、胚盤胞形成率、良好胚盤胞率においては差を認めませんでした。
妊娠率・流産率・・・差はない
妊娠率
(+)群:28.9%
(-)群:30.9%
流産率
(+)群:19.2%
(-)群:24.1%
出生児異常…差はない
という結果が得られており、私たちの結論としては、
sERC(+)群と(-)群とでは、受精率は低下するものの、その後の培養成績、妊娠率、流産率に差は認められず、
今後も継続して児の発育調査は必要不可欠であるが、現時点ではsERC(+)卵子由来の受精卵は移植の選択になり得る
と考えています。
また当院では、出産後のお子様のフォローアップにも力を入れており、
先日の日本IVF学会学術集会でも最優秀賞(森本賞)を受賞しました。
以下からも確認いただけます。
限られた時間や選択肢の中で、最善の治療を進めることが求められている今、
こうした細かな一つ一つも研究を重ねていくことで、
一人でも多く、一日でも早い妊娠に向けたサポートをしていきたいと思います。