妊孕性温存について考える

論文紹介:乳がん患者における妊孕性温存の有効性について

高輪院副院長の橋本朋子先生の論文が新たに公開されました。

タイトルは

「Effects of fertility preservation in patients with breast cancer: A retrospective two-centers study」

(乳がん患者における妊孕性温存の効果についての後方視的研究)

以下からもご確認いただけますので、ぜひご覧ください。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/rmb2.12054/full

 

乳がん患者における妊孕性温存の有効性について


 

仙台院と高輪院で2003年から2015年の期間において、当院を訪れた乳がん患者さんを対象に、

妊孕性温存の有効性について検討したという趣旨です。

 

今回では以下のような患者さんを対象に検討いたしました。

 

42名の体外受精を実施した患者(母集団)

└21名の方が「がん治療前」に体外受精を実施(A群:妊孕性温存群

└13名の方が「がん治療後」かつ「化学療法実施なし」(B1群)

└8名の方が「がん治療後」かつ「化学療法実施あり」(B2群)

 

これらのグループに対して行った卵子凍結あるいは受精卵凍結の結果について、

振り返り、比較を行いました。

 

①患者背景の比較

患者さんの年齢については以下のような分布となりました。

 

がん罹患時の年齢

A群:34.81歳±4.01歳

B1群:35.82歳±2.66歳

B2群:33.00歳±4.75歳

 

初診時の年齢

A群:35.19歳±3.27歳

B1群:38.69歳±5.39歳

B2群:40.50歳±2.56歳

 

がんに罹患された際の年齢は変わりませんが、

初診にかかられたときには年齢差があります。

(がん治療が一定落ち着いてからの治療となるため)

 

②検査時点での比較(AMH)

患者さんのAMHについては以下のようになりました。

A群:3.56±4.01

B1群:3.48±2.66

B2群:1.34±1.09

 

B2群、つまり化学療法を受けられた患者群だけが低くなりました。

 

③採卵数の比較

採卵を行い、結果は以下のようになりました。

採れた卵の数

A群:6.86±5.62

B1群:5.76±4.95

B2群:2.42±2.54

得られた受精卵(胚盤胞)の数

A群:2.24±2.11

B1群:2.00±2.83

B2群:0.24±0.50

 

やはりB2群だけが際立って少なくなっているのが確認できると思います。

これは化学療法による影響が卵巣機能を著しく低下させることを示唆しているものと考えられますので、

妊孕性温存を希望される際には、化学療法予定があるのであれば、化学療法開始前に治療ができるのが望ましいということです。

 

実際の妊娠率で見た比較


受精卵を得た、その後の検証についても進んでいます。

①妊娠率(患者あたり)

A群:100%(2/2)

B1群:45.5%(5/11)

B2群:37.5%(3/8)

 

②妊娠率(移植あたり)

A群:66.7%(2/3)

B1群:20.8%(5/24)

B2群:10.7%(3/28)

 

妊娠成績という観点では高い妊娠率であると考えられますが、

総数が少ないため、今後もまだまだ検証が必要です。

 

現時点で卵子凍結・受精卵凍結による妊孕性温存においては、

やはり採れた卵子の数、得られた受精卵の数が大切であることを考えられると、

化学療法を実施する前に、実施できるのが理想的な状況と考えられます。

 

こうした情報が患者さんはもちろん、医療関係者にも浸透することによって、

がん治療発覚時の選択肢をできるだけ多く用意できるようになり、

それは未来の妊孕性温存につながっていくと思います。

これからも一人で多くの妊孕性温存に貢献していきたいと思います。

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