当院理事長の京野の最新の論文が Journal of Assisted Reproduction and Geneticsに掲載されましたので紹介いたします。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10815-017-1022-3
タイトルは
A transportation network for human ovarian tissue is indispensable to success for fertility preservation
というものです。
内容については、これまで様々なところで講演してまいりました内容と重なる部分もありますし、
前回の8月29日の勉強会でもお話しした内容でもあります。
当院理事長の京野は、妊孕性温存への取り組みを2000年から始め、
おそらく日本人として最も多くの海外の施設を見て回ってきた一人ではないかと思います。
多くの妊孕性温存、そしてそのあとの健康なこどもの妊娠出産に成功して世界をリードしている諸国を知っているからこそ、危機感を以て、繰り返し提言をしています。
その内容が
「卵巣組織凍結のための搬送ネットワークは妊孕性温存の成功になくてはならない存在である」
というものです。
内容はぜひ以下からも確認いただきたいですが、ここでは要点をご紹介できればと思います。
実際に卵巣組織凍結を必要とする患者数
先行しているデンマークやドイツの例にならいつつ、日本のがん患者の実際のデータから予測される
卵巣組織凍結を行う症例数としては、多く見積もって400例程度ではないかと予測しています。
もちろん予測値ではあるので、確実ではないかもしれませんが、
これよりも大きく離れて数が増えるというのはなかなか考えにくいように思います。
デンマークやドイツのモデルは、卵巣の摘出は地域格差なく行われる一方で、
卵巣組織凍結を行う凍結保存センターは集約されています。
日本では、都道府県ごとにセンターを設ける発送で進めてはいますが、想定される症例数から考えると、施設過多に陥る可能性があります。
施設過多に陥るデメリットは多岐にわたります。
①クォリティコントロールができない
年間400症例を仮に47施設で分ければ1施設に対して年間10症例程度となります。
この数では、通常の卵子や受精卵凍結とは全く異なる手法で行う卵巣凍結の手技は未熟なままでクォリティが高まっていかない可能性があります。
②コストがかかる
実際にセンターを運営している私たちの試算では、1つのセンターを30年維持するには、5億円もの運営コストがかかると考えられます。
妊孕性温存は長期間にわたって維持しなければならないので、その継続性も重要ですし、
諸外国と比べて、卵巣組織凍結を行うにあたっての患者の費用負担は日本は極めて高い水準であることは意外にも知られていません。
がん治療だけでも費用的負担があるなか、誰にでも選べる水準ではないのです。
こうしたコストが集約できれば、治療費の軽減につなげていくこともできると考えます。
こうした内容の他、世界で採用される緩慢凍結法と日本で多く採用されているガラス化凍結法の違いや
当院で研究したガラス化凍結した卵巣組織における凍結保護剤の残存濃度の高さについて、
諸外国の卵巣組織凍結にかかる費用の補助についての実態など、
世界と日本を比較しながら、私たちが考える今後の日本が目指すべき妊孕性温存の方向性を示唆しています。
凍結方法の違いなどでは、以下でも紹介していますので、ぜひご確認ください。
「患者中心の医療(Patients Centerd Care)」を実現するため、これからも研究と臨床を重ねていきたいと思います。