今回の妊孕性温存について考えるコーナーは、当院で開催された勉強会についてご紹介いたします。
8月29日に当院主催で開催した、「妊孕性温存の現状についての講演とディスカッション」は、
外部から50名を超える先生方にご参加いただきました。
妊孕性温存に関する講演は今回で第三回となりましたが、第1回はイスラエルのDror.Meirowをお招きしての講演会、
第2回はドイツのFertiPROTEKTのM.Montagをお招きしての会でした。
今回は、実症例の紹介なども含め、当院スタッフと川崎幸病院の長谷川明俊先生をお招きしての開催となりました。
当院理事長の京野からは、世界各国の妊孕性の現状と日本の状況などを発表いたしました。
昨今注目の集まる、卵巣組織凍結についても、実際に実施している私たちならではの考えとして、
推測される患者数やそれに必要な保存センターの数、センター運営にかかるコストなどを
具体的に掘り下げていく中で、会場の皆さまと共に、「患者中心の医療」をどう構築していくか、を議論いたしました。
当院の提携施設である川崎幸病院の婦人科部長である長谷川明俊先生からは、
卵巣組織凍結の実際ということで、手術動画を用いてご説明いただきました。
摘出時にはパワーデバイスを使用しないなど、具体的に摘出を安全かつ迅速に行うためのポイントを解説いただきました。
実際に、長谷川先生の手術によって、より多くの卵巣組織切片が安全に得られ、
患者さまにとって、より多くの妊孕性が温存されたことはいうまでもありません。
そして、当院培養部の青野からは卵巣摘出後の搬送、IVMや卵巣凍結の実際の流れについて解説いたしました。
今回は、川崎⇔品川という近距離での摘出・搬送となったため、二つの搬送方法が選択されました。
1つは4℃で保存液で運ぶもの、もうひとつは常温で培養液で送るものです。
後者は今回IVM(未成熟卵子の成熟体外培養)を行うために必要でした。
結果として、3つの未成熟卵を成熟体外培養して、その後顕微授精、2つの受精卵をえることができました。
加えて、全体の卵巣組織切片としては、多くの切片を保存することができました。
卵巣組織凍結には、MRD(微小残存病変)の問題があるため、卵巣組織に加えて、
受精卵も得られたことで、より多くの妊孕性を温存することにつながったと考えられます。
長谷川先生の講演の結びにもありましたが、
がん治療と生殖医療、そして内視鏡と複数の専門領域をまたいで行われる
妊孕性温存を成功に導いていくには
医療機関で密に連携をとり、慎重に、丁寧に進めていく
ことが欠かせないことを痛いほど感じる、とても良い機会でした。
質疑応答では、様々な質問が飛び交いました。
卵巣摘出の手技についての具体的な意見交換や、
手術記録などのレジストリの今後の保存方法など、
今回のような近距離連携ではなく、片道2時間以上の遠隔連携の場合はどうするか、など
多くの質問と提案をいただき、活発なディスカッションが行われました。
妊孕性温存の道は、こうした様々な意見交換や切磋琢磨の上で、より確かなものになっていくのだと思います。
ご参加いただきました先生方、皆さま、本当にありがとうございました。
一人でも多くの妊孕性温存に貢献するため、スタッフ一丸となり努力してまいります。