こんにちは、生殖心理カウンセラーの菅谷典恵です。
今回は、なんとなく耳にする
「赤ちゃんは空の上から見ていて、親を選んでやってくる」
ということについて考えてみたいと思います。
私はこの考え方に、大きな違和感を持っています。
妊娠するためには「赤ちゃんに選んでもらえる私にならないといけない」のでしょうか?
自己鍛錬が足りないから妊娠につながらないのでしょうか?
赤ちゃんに選んでもらえないから妊娠できないのか?
この考えが正しいとすると、
「妊娠しないということは赤ちゃんから選んでもらえていない」
ということを意味することになります。
大変複雑な想いにかられる考え方です。
私個人としては、妊娠出産というものはそのようなスピリチュアルな部分に依っているわけではなく、
もっと現実的で生物学的な部分で進んでいくことなのだと思っています。
生殖医療の世界にいるとこのように感じることが多いです。
先日もスピリチュアルな部分を否定するような患者さまのお話しをお聞きしました。
「凍結胚移植周期の真っ最中に家族に大変な出来事があり、移植のことなど吹き飛んでしまった。
移植を延期しようかと思ったが内膜も整っていたので、全く期待しないで移植した。
判定待ちの間もお腹にはそれほど注意を向けられず大変な毎日を過ごしていた。
結果を聞いた時に『陽性反応出てますよ~!』と言われても、
あまりにも想定していなかったので先生の言葉が頭に入って来ず混乱した。こんな状況でも妊娠できるんですね!」
妊娠が成立するときはこのようなことももちろんあります。
妊娠の成立には、卵子と精子が受精し、受精卵が順調に分割し、
子宮の内膜に潜り込んでくれるかどうかという生物学的な意味合いが強いのではと思われます。
仕事が大変でも、昨日コンビニのお弁当を食べてしまっても、
今朝パートナーとけんかしても、ほかの人の妊娠を心から祝福できなくても、
妊娠するときはできますから、あまり多くを気にしなくて大丈夫です。
逆に、万全の態勢で胚移植に臨んだのに良い判定が出なかった、ということもお聞きします。
「移植後はイライラしないように気をつけ、走らないように時間にゆとりを持って出かけるようにした。
カフェインもアルコールも我慢し、陰性判定だったら残念会でいっぱいビールを飲もうと思って、心も体も準備していた。結局、実際にビールを飲んで気持ちを切り替えた。」
というお声も実際にあります。
一方で、「赤ちゃんは親を選んでやってくる」という言葉は、自分自身に向ける言葉としてなら良いと思います。
「私はこの子に選ばれたんだ!」
と、この言葉を自分に発することによって、自分自身を鼓舞したり矜持となり得るのなら、
プラスに働いてくれると思います。
また、
「赤ちゃんがやってきてくれる身体でいたいので、お肉をたくさん食べちゃおう。」
などのような使い方も良い使い方ですね。
この「お肉をたくさん食べる」ということが妊娠に近づく道になるのかどうかは
また別の問題として、楽しいと思えることを取り入れていくためにはお勧めだと思います。
しかし、それを何かと引き換えにしたり、結びつけたりするのはお勧めしません。
例えば、アイスクリームを食べて
「あ~、おいしかった。」
で終わらせるのは良いと思いますが、
「アイスを食べてしまったから、赤ちゃんが来てくれなかったのかな。」
というのは誤った考え方です。
このような考え方は、楽しいことすべてが妊娠を遠ざける悪事になってしまいきりがないですし、
禁欲的なことだけが妊娠に近づける良いことという位置づけになってしまいます。
禁欲的な生活をしていれば妊娠するわけではないのです。
もちろん、例えば喫煙をしていたり、体重が多すぎたりという、実際に妊娠を遠ざける状態は改善してあげるべきことかもしれませんが、
それでも人から「赤ちゃんは選んでやってくる」と言われるべきことではないと思います。
自分以外の人に対して向ける言葉ではないと思うのです。
ご自分が元気になれる言葉を取り込みましょう。
お肉やアイスクリームの具体例を挙げましたが、
このような考え方は認知行動療法に基づくものです。
当院でも実施している、自分自身がラクになる考え方を身につけていくトレーニングです。
妊娠のことだけでなく、対人関係や自分自身の考え方などに広く応用できますので、
ぜひご利用ください。
繰り返しますが、「赤ちゃんは空から見ていて、選んでやってくる」わけではありません。
不用意な言葉で傷つく必要はありません。
ご自分が、ご自身の一番の味方でいてあげてください。