妊孕性温存について考える

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群 BRCA1 BRCA2による影響について

遺伝性のがんや遺伝性乳がん・卵巣がん症候群については、以下にて簡単に解説しました。

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群

今回はさらに進んで、BRCA1やBRCA2に異常があることによるリスクについて解説したいと思います。

 

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群による影響


 

遺伝性乳がん・卵巣がん(BRCA1/2遺伝子変異あり)の患者群と

家族歴のある患者群と一般の患者群を比較して、その影響を見ていきたいと思います。

参照:国立がん研究センター、乳がん診療ガイドライン、NCCN臨床額腫瘍ガイドラインなど

 

乳がん・卵巣がんにかかる可能性について

 

患者群

一般の方

家族歴あり

BRCA1/2変異あり

罹患する可能性(乳がん)

罹患する可能性(卵巣がん)

9%(12人に1人)

1%(82人に1人)

18-36%

3-11%

41-90%

8-62%

倍率(一般との比較:乳がん)

倍率(一般との比較:乳がん)

2-4倍

3-10倍

6-12倍

8-60倍

 

また、乳がんに関しては、上記以外のリスクも研究で指摘をされています。

乳がんの乳房内再発のリスクが1.5倍程度(17%:11%)

乳がん術後に反対側の乳がん発症率が3.5倍~(23.7%:6.8%)

(Valanchis A.et al,Breast Cancer Res Treat144:443-455,2014)

 

などの報告がなされています。

 

がん統計’2015によれば、5年相対生存率は、

乳がん:92.7%

卵巣がん:61.0%

であり、乳がんについては、早期の発見がなされれば、その予後は良いものが多いと考えられています。

 

こうしたことが報告されていることもあり、

遺伝子検査でHBOCの診断がされた乳がん患者の場合には、乳房全摘出術を行う事もありますし

卵巣がんの場合は、乳がんと比べて、早期診断が困難な側面もあることから、予防的に卵巣と卵管を切除する

「リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)」が実施される場合もあります。

RRSOを行うことで、女性ホルモンを産生する卵巣を切除することになるため、

乳がんの発症予防効果も期待されます。

 

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)への検査について


遺伝性の乳がんであっても早期に発見されれば、一般のがんと比べて

生命予後には影響しないことが報告されています。

 

もし、HBOCと診断された場合には

18歳から、乳房の自己検診を行う

25歳から、医療機関で1年に1回程度の頻度で視触診を受ける

25歳から30歳から、1年に1回MRI検査あるいはマンモグラフィ検査を受ける

※電離放射線を用いた利用したマンモグラフィの使用については、大規模な研究によって、

30歳未満では被ばくによる乳がん罹患リスクが上昇することが確認されているため、

慎重に検討されるべきという意見もあり、MRIの方が有用性が高いという報告もされています。

 

乳がん治癒後は残っている乳房組織についてのマンモグラフィ検査とMRI検査を1年に1度受ける

などによって、予防や早期発見に努めていくことがかかせません。

 

また、卵巣がんについては、

リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)が、出産を終えて、35-40歳の間に行われることが理想的

※時点で考慮する

手術を希望しない 場合には、婦人科の医師に相談の上、半年に1回の頻度で

経腟超音波検査、腫瘍マーカーを考慮する

などの予防策が挙げられています。

 

リスク低減手術については、様々な報告がなされています。

 

予防的に両側の乳房を切除するリスク低減手術については

遺伝性乳がん患者で、BRCA1/2遺伝子変異がある方の乳がんリスクを95%、

家族歴がある患者では乳がんリスクを最大90%低減できるという報告があります。

 

リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)については、卵巣癌や乳癌を発症するリスクが非常に高い女性において、

卵巣がんリスクを約90%、乳がんリスクを約50%低減させることが報告されています。

 

 

妊孕性温存の原則は、まずは原疾患の治療を優先することです。

がんについての正しい知識を持ち、より寄り添ったサポートができるようにしていきたいと思います。

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