遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)というものがあります。
妊孕性温存について考えるとき、このテーマは今後非常に重要なものとなってきます。
まずは、遺伝性のがんとはどういうものか、
そして、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群とはどういうもので、
誰にどのような影響を及ぼすのかについて解説したいと思います。
遺伝性がんとは
日本人の乳がんの13.5%(8人に1人)に家族歴が認められると報告されています。
遺伝性乳がんが5-10%といわれているため、それよりもやや高い数値です。
この理由は共に生活している家族は食生活などの環境要因を共有していることもあるため、
家族歴陽性であっても、遺伝ではないものも含まれているからです。
つまり、がんには遺伝要因と環境要因があり、特に遺伝要因が強く関わっているがんのことを
遺伝性がんと呼びます。
通常、細胞ががん化していくためには、遺伝子の異常が2回起こる必要があります。
しかし、遺伝性のがんの場合には、生まれつきの遺伝子異常を持っている状態になるので、
1回の異常でがんになります。
そのため、若年発症したり、全身の細胞に遺伝子異常をもっているので、
多重多発がんを発症する可能性があります。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)とは
遺伝性乳がん卵巣がんは、乳がん感受性遺伝子(BRCA1あるいはBRCA2)の変異を生まれつきもっており、
そのどちらかに遺伝子変異が起こり、発症します。
HBOCの特徴として
- 若年で乳がんを発症する
- トリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体がなく、HER2発現がない)
- 両方の乳がんにがんを発症する
- 片方の乳房に複数回の乳がんを発症する
- 乳がんと卵巣がんを併発する
- 家族にすい臓がんや前立腺がん、乳がん、卵巣がんにかかった人がいる
などが挙げられます。
妊孕性温存は、年齢的な制約があります。
おおよそ45歳までと考える場合、その年齢での乳がんの発症は若年性での発症であるため、
とても重要な問題となります。
そして、このBRCA1/2の異常は50%の確率で親から子供に受け継がれていきますし、
受精卵に起こった異常は全身の細胞に伝えられるので、複数の臓器にがんを発症する可能性も出てきます。
そのため、妊娠・出産という点を一つの目標として考えるとき、
現時点で最も高い妊娠率へつながるのはおそらく受精卵凍結ですが、
若年性のがんで妊孕性温存をしている場合には、ご本人だけでなく、パートナーにも正しい情報提供をし、
時にはパートナーのご家族なども含めてフォローが求められることになるのだと思います。
原疾患(がん)についての知識、遺伝についての知識、生殖に関しての知識に加えて、
ご本人とそのパートナーやご家族にまで及ぶ問題となるため、広範囲にわたるサポートが欠かせません。
遺伝カウンセラーによるカウンセリングもより必要になるように思います。
HBOCに関する詳しい情報は以下からも確認できます。