妊孕性温存において、卵巣組織凍結への注目が高まっています。
その中で、同じように注目されているのが、「搬送システム」についてです。
海外で実施されている搬送システムの活用が日本でできれば、
成績や技術の向上、コストの低下など様々なメリットが期待されますが、
搬送システムが不可能であれば、異なる選択肢の模索が必要になるため、
きわめて重要な議論です。
当院の研究内容並びに海外でのデータについて共有いたします。
卵巣組織の搬送について
当院では、2010年12月から提供された卵巣組織(30名)を用いて、搬送に関しての基礎研究を行いました。
Reprod Med Biol 2014;13:47-52にて一部、結果について公開していますが、
結果として「4℃ on iceで搬送すれば、18時間までその卵巣を治療に用いることができる」というものです。
また、海外においては、 ドイツ・スイス・オーストリアではFertiPROTEKTと言うネットワークを作って、
卵巣組織を4℃ on iceで22時間以内に搬送して、この治療をおこなっており、16名出産の報告があります。
この内容については、当院の日本卵巣組織凍結保存センターのサイトでも紹介しています。
今後の展望
様々な研究がされていますが、取り出した卵巣組織を「保存液」で管理し、
搬送することについては、国内外で安全性は確認されていると考えてもよいでしょう。
また、保存液ではなく培養液で管理をしている場合は、その限りではないため、注意が必要です。
(4時間を超えると機能が低下してしまう可能性が指摘されています)
あくまでも保存液の使用が前提です。
保存液を使用し、その後妊娠出産に至っている例はドイツを中心に数多く挙げられています。
一方で、近隣の医療機関との連携の場合については、一部を常温での搬送にも適応することが求められます。
当院でも実施した例がありますが、2時間以内の搬送が可能となる場合は室温で搬送し、
その卵巣組織からIVM(未成熟卵子の成熟体外培養)を行うことができました。
その結果、十分な卵巣組織と、未受精卵子(その後顕微授精して、受精卵にて凍結)が得られました。
患者さまの意向があっての話ですが、受精卵から凍結することで、がん治療後の安全性も一層高まるものと考えられます。
また、緩慢凍結法による卵巣組織凍結も、未受精卵子の成熟体外培養も、
習熟した技術が必要と専用の装置や物品が必要です。
誰にでもできることではありません。
1つでも多く、卵巣組織凍結、受精卵凍結、卵子凍結ができれば、
その患者さまの妊孕性はその分高まります。
日々技術習得に努めていきたいと思います。