今回は当院で実施した研究について、ご紹介したいと思います。
これまでヒト凍結融解卵巣組織移植にて95名の赤ちゃんが誕生しています。
内訳として、
93名が緩慢凍結法(Slow Freezing:S法)
2名がガラス化法(Vitrification:V法)
の割合で圧倒的に緩慢凍結法での出産が多いことがわかります。
なぜなのでしょうか。
私たちは、
ガラス化法は緩慢凍結法に比較して凍結保護剤の濃度が約4倍高く、融解時間が1/4と短いからではないか。
それによる安全性への懸念されるのではないか。
と仮説を立てました。
そして、緩慢凍結法とガラス化法で移植直前の卵巣組織切片内の凍結保護材がWash outされているかを検討するため、
融解段階の卵巣組織内の凍結保護材残量を測定しました。
研究概要について
この比較研究は院内倫理委員会の承認を得て、2016年8月から6か月間に実施しました。
ウシ(multipara and average month is 24.2 M)5頭の卵巣5個、
ヒトにおいては研究同意を得られた 5名(40歳以下の女性)の卵巣5個を
①凍結保存中(融解前)
②融解途中
③融解後移植直前
の3か所で凍結保護材の残存量を比較したものです。
凍結保護剤濃度と融解時間の比較
* 37℃で1分間融解後の融解ステップ
凍結保存時から、緩慢凍結法の方が濃度が低いことが確認されます。
結果①ウシ卵巣
※DMSOやEGというのは、凍結保護剤の一種です
あらゆる段階において緩慢凍結法においては、残存量が少ないことが確認されました
結果②ヒト卵巣
同様に、緩慢凍結法では残存がほとんど見られないレベルにまで濃度は低下し、
ガラス化凍結法では、残存濃度が高いことがわかりました
結論
今回の比較検討の結果、ガラス化法では凍結保護剤の残存量が多いことがわかりました。
私たちは母体および生まれてくる子への安全性への配慮の観点から、
人体への移植直前では卵巣組織内のCPはWash outされるべきであると考えており、
今後、残留CPの毒性についての検討ならびに移植まで考慮した安心安全で有効性の高い
簡便な卵巣凍結法を目指していきたいと考えております。
卵巣凍結は日本においては、いまだ実験的とされるむきもありますが、
こうした安全性も含めて、細心の注意を払ってすすめていければと思います。