妊孕性温存について考える

妊孕性温存について考える 薬剤と不妊の関係 

現代の医療では、実に様々な薬剤が臨床現場で使用されています。

それぞれの薬剤の使用方法や禁忌などが決められており、

副作用についても中枢神経系や血管系、消化器系なども記載、報告がされていますが、

実は妊孕性に関する部分については、記載がされていないものも少なくありません。

 

今回は一般的に使用される薬剤で、悪性腫瘍の治療過程で用いられる抗腫瘍剤について記載します。

 

抗がん剤による卵巣毒性とは?


シクロフォスファミド

 

シクロフォスファミドは、抗腫瘍剤として多く用いられます。

確認されている副作用として、男性の場合、投与量が6-10gで無精子症を生じ、それ以下では精子形成の抑制が起こります。

逆に投与量が多くなると、回復が悪くなり、男性不妊は永久的になるという報告もあります。

 

女性の場合、卵巣毒性が高いことで広く知られており、月経不順と無月経を起こしますが、男性と同じ投与量の範囲であれば、

性腺への影響から回復する場合もあるということが報告されています。

ただそれも年齢による部分が大きいといわれています。

35歳以下であればほぼ全員が再開しますが、

年齢が上がるほど、再開しない人の割合が多くなります。

 

また、1年後の月経再開率について、

  • 35歳以下で63%、
  • 36~40歳で50%、
  • 41歳以上では33%

(参照:Tamura:ASCO 2011)

という結果が得られているとのことです。

 

ブスルファン

ブスルファンを投与された女性では、6か月以内にが起こり、

0.5~14mg/日投与で3カ月後には持続性無月経が生じます。

 

シクロフォスファミドやブスルファンは「アルキル化剤」と呼ばれます。

アルキル化剤とは、マスタードガスの研究から開発された、細胞障害性抗がんの代表的な薬です

卵巣毒性が最も高い部類とされていますが、そのほかのアルキル化剤としては、

  • イホスファミド
  • メルファラン
  • ダカルバジン
  • プロカルバジン
  • チオテパ
  • クロラムブシル
  • テモゾロミド
  • ニムスチン
  • ラニムスチン

などが挙げられます。

 

ドキソルビシン(アドリアマイシン)

ドキソルビシンは、抗がん性抗生物質の1つで、がん細胞のDNA合成を妨げるほか、DNAを切断してがん細胞を殺す働きをします。

抗がん性抗生物質とは、土壌に含まれるカビなどから作られた抗癌剤で、癌細胞の細胞膜破壊やDNA合成を阻害しますが、

白血球減少、好中球減少、血小板減少などの骨髄抑制が副作用として表れやすい点が挙げられます。

また、急性骨髄性白血病の患者へ大量投与し無精子症となった例においては、術後、妊孕性が回復した例なども報告されており、

リスクの程度としては、中程度となります。

 

メトトレキサート

メトトレキサートは、代謝拮抗剤の1つで、産婦人科でもよく使用されており、副作用についても同時に多く報告されています。

男性においては、乏精子症や精子形態異常の報告もされています。

女性では、無月経や不妊の確たる証拠となるものは少ないようです。

代謝拮抗剤とは、DNA合成酵素を阻害し、癌細胞の増殖を抑制する抗癌剤であり、リスクとしては低いと考えられています。

 

この他に、最近では分子標的薬なども注目を集めてきており、詳細な情報が待たれるところです。

 

実際の抗がん剤を用いた化学療法では、一つの薬剤だけが使用されるということよりも、

複数の薬剤を組み合わせたものであることがしばしばみられます。

別の機会に、実際に複数の組み合わせによる副作用などについても記載したいと思います。

 

薬の副作用については、様々にあるものの、まずはがん治療の成功が第一に考えてしかるべきだと思います。

そのうえで、いかにして、妊孕性を保つかという考えが求められます。

 

 

 

妊活ノート編集部

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