流産を2回くり返した症例は反復流産、3回以上連続して発生した症例は習慣流産と定義されます。
不妊治療の末にようやく妊娠したのに流産、それも繰り返すとなればその悲しさは想像に難くありません。
流産を予防するために、様々な治療や薬剤の投与がされることがあります。
しかし、妊娠中の身体にとって、不必要な薬剤の投与は避けるべきという考え方もあります。
習慣流産に対しての治療法
反復・習慣流産の中で原因が特定されるのはわずか半数に過ぎないとされています。
判明した原因の中では血栓素因(血液が固まりやすい体質)は抗凝固療法で治療が可能です。
しかし、血栓素因の有無にかかわらず抗凝固療法が行われることがあり、
代表的な経口抗凝固薬であるアスピリンが投与されることも多いのが実情です。
アスピリンについては二重盲検法※で流産予防効果は否定されています。
今回紹介する論文は、更に抗凝固作用の強い低分子ヘパリン(エノキサパリン)を習慣流産の患者へ投与し、
流産予防効果が有るか二重盲検法で検討した研究です。
※二重盲検法とは・・・実薬と偽薬のどちらを内服しているか患者も医師も知らされない、非常に信用性の高い研究法
対象と方法:15週未満の流産を2回以上連続で経験し、習慣流産の原因が不明とされた258名です。
つまり、本人とパートナーの染色体異常がない、流産の原因となる子宮奇形、そして血栓素因を認めない患者となります。
この患者を低分子ヘパリン(エノキサパリン40mg)を連日投与する138名と偽薬(プラセボ)を連日投与する118名にランダム化しました。
投与は妊娠5週(胎嚢が見える時期)から35週まで行い、
1次転機を生産率(出産まで妊娠が継続し生児を得る率)、
2次転機を副作用、
20週以前の妊娠転機、
20週以降の妊娠転機、
生児の出生時体重
出産時期
で比較検討を行いました。妊婦健診と分娩を取り上げる医師も、どの患者が低分子ヘパリンとプラセボを投与しているかは知らされていません(二重盲検法)。
尚、エノキサパリン投与とプラセボ投与を行った患者には年齢、過去の流産回数などに明らかな差は認めておりません。
検証の結果としては…
結論として、
原因不明の習慣流産患者への低分子ヘパリン投与は流産率、生産率を改善させない
といえるかと思います。
具体的な結果としては、
- 1次転機である生産率は全体で69.5%(178/258名)となり、その内訳はエノキサパリン投与66.6%、プラセボ投与72.8%でした(それぞれに明らかな差はなし)。
- 2次転機の副作用は児の奇形、大出血・小出血、などに明らかな差はなし。
- また20週前の妊娠転機として流産をエノキサパリン投与30.4%、プラセボ投与23.7%で認めました(それぞれに明らかな差はなし)。
- 20週以降の妊娠転機では子宮内胎児死亡、子癇前症、常位胎盤早期剥離、早産、血小板減少症の発生にエノキサパリン投与、プラセボ投与で明らかな差はなし。
- 平均分娩週数はエノキサパリン投与39.3週、プラセボ投与38.9週、平均出生児体重はエノキサパリン投与3284g、プラセボ投与3142gで明らかな差はなし。
- 過去の流産回数、過去の生児出産の有無、年齢(35歳より高齢)などで解析した結果も同様に明らかな差はなし。
一部副作用も報告されていることから、妊娠中に不必要な薬剤の投与は避けたいものです。
また、今回の論文は未治療であっても約70%の生産率が有ることを間接的に示しています。
この結果には不妊診療に当たる医師だけでなく、実際に治療を受ける患者様も勇気づけられることと思います。